
著者: 石川忠久 著(いしかわただひさ)
定価: 2,625 円 (四六判・344頁)
●内容説明:
キラ星のごとく輝く中国の詩人たちの作品を、日本人はどのようにして自分たちの血肉としていったのか?
日本的な風物である富士山・吉野の桜・隅田川の風情・十三夜の月をテーマにした詩を皮切りに、江戸の頼山陽・服部南郭・新井白石、近代の竹添井井、乃木希典・三島中洲、さらには正岡子規・永井荷風・石川啄木の漢詩を採り上げた、きわめて興味深いエピソードに満ちた読物。漢詩の権威・石川博士が先人たちの粒々辛苦の跡を追いながら読者を風雅の過去へと導く。
●主要目次:
▒ ▒ ▒ 序
▒ ▒ ▒ 第一章 海を詠う
頼山陽/吉村迂斎/王維/藤原惺窩/伊形霊雨
▒ ▒ ▒ 第二章 富士山の詩
山部赤人/石川丈山/柴野栗山/新井白石/荻生徂徠/秋山玉山/伊藤春畝/菅茶山
▒ ▒ ▒ 第三章 吉野の桜
河野鉄兜/梁川星巌/石川丈山/菅茶山/頼山陽/藤井竹外/元☆(じん)
第四章 墨江の風情
永井荷風/陳文述/服部南郭/平野金華/高野蘭亭/山内容堂
▒ ▒ ▒ 第五章 竹枝余情
劉禹錫/蘇軾/森春濤/杜牧/鱸松塘/菊池五山/杉田呑山
▒ ▒ ▒ 第六章 十三夜の月
上杉謙信/藤原忠通/曹丕/陶淵明/謝霊運/杜甫/白居易
▒ ▒ ▒ 第七章 啄木と漢詩
白居易/杜甫/陶淵明/王維
▒ ▒ ▒ 第八章 啄木と漢詩(続)
劉禹錫/耿☆(い)/陳子昴/李商隠/趙☆(か)/張喬/杜牧/杜甫
▒ ▒ ▒ 第九章 子規と日清戦争
戴叔倫/常建/高適/李益/李白/頼山陽/蘇東坡
▒ ▒ ▒ 第十章 乃木将軍と日露戦争
杜甫/李華/韓愈/杜牧
▒ ▒ ▒ 第十一章 三島中洲の「霞浦遊藻」
蘇東坡/司空曙/范成大/王維
▒ ▒ ▒ 第十二章 大正天皇と三島中洲
李白/菅茶山/杜甫
▒ ▒ ▒ 第十三章 竹添井井と「桟雲峽雨日記」
兪☆(えつ)/陸游/范成大/杜甫/朱熹/柳宗元
▒ ▒ ▒ 第十四章 洪武帝と絶海中津
高青邱/武田信玄/王粲/全室
▒ ▒ ▒ 第十五章 新井白石と朝鮮通信使
盧綸/厳維/宋玉/張籍/陶淵明/鄭谷/杜甫
▒ ▒ ▒ 第十六章 朱舜水と安東省菴
杜甫/白居易/韓☆(こう)/柳宗元/王安石/銭起
▒ ▒ ▒ 第十七章 幕末の経世家・山田方谷
三島中洲
▒ ▒ ▒ 第十八章 長崎の詩人・吉村迂斎
頼山陽/李白/許渾/陸游/王之渙/蘇東坡/韓愈
▒ ▒ ▒ 第十九章 頼鴨厓と百印百詩
松浦武四郎/温庭☆(いん)/陶淵明/王維/劉邦
▒ ▒ ▒ 第二十章 戦国武将の詩
武田信玄/洪武帝/伊達政宗/白居易/陶淵明/直江兼続/王維/何遜/杜秉/蘇東坡
▒ ▒ ▒ 第二十一章 琉球の詩人たち
程順則/毛世輝/蔡温/阮超叙/皇甫冉/韓愈/蔡大鼎/王湾/高適/毛有慶/柳宗元
▒ ▒ ▒ 第二十二章 最後の漢詩人・阿藤伯海
李白/銭起/劉禹錫
▒ ▒ ▒ 第二十三章 子規・漱石と房総の旅
竹添井井/頼山陽/李白
▒ ▒ ▒ 第二十四章 勉学の詩
朱熹/周敦頤/謝霊運/菅茶山/高啓/広瀬淡窓/大正天皇/頼支峰/菊池三渓
▒ ▒ ▒ 詩人小伝
――今日、英語の達者な人は多いが、英語で詩を作る人はいるかどうか。作る人がいたとして、その詩に日本人独自の風趣が漂うようなものができるか。――
答えはノーであろう。ところが、漢詩においては日本人はそれをやってのけたのである。ことに、江戸の後期から明治へかけての作品は素晴らしい。
そもそもの初め、日本人は荒波を超えて中国へ渡り、その先進文明を懸命に吸収し、己の血肉と化した。当然中国語を学び、中国人の先生から直に教えを受けたはずだ。しかし、漢字を我が物とするや、漢字を元にして仮名を発明し、漢字にやまと言葉の読み(訓)をつけ、漢文の原文に記号を施すことによって語順を変えて読む方法――訓読法を発明したのである。
これによって、遣唐船が廃止になるころ(九世紀末)には、もはや中国人に学ばずとも漢文(中国の古典)が読めるようになり、自由に漢文を書き、漢詩も作ることもできるようになった。
学力が十分でなく、技倆が整わないうちは、いわゆる「和臭(習)」がまつわったが、五山を経て江戸に到ると、徳川文治主義の体制の下、漢文の素養は庶民にまで浸透し、その結果として上層は最高の昻まりに達した。裾野が広がれば山は高くなる理である。
もともと日本と中国は、風土も異り、民族性も同じくないのだから、生み出される詩歌も当然味わいが違うはずだ。技倆が十分に発揮された時、それは自然に表れ出て、日本人独自の漢詩がここに誕生した。<序より>



